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(写真:2011年夏/真岡市中郷の大日堂獅子舞) 農業という営みにとって祭りは大切な行事です。 どんなに農業技術が発達しても、未だに 天候に作柄が左右されることは多く、昔であればなおのこと 神様に祈るしかできなかったことでしょう。 春、今年よい作柄となりますようにと祈る「予祝の祭」 そして、台風の風に稲が倒れないようにと祈る「風除けの祭」 秋、豊かな実りに感謝の祈りを捧げる「収穫祭」…など 人々は一年に渡って、常に祈りと感謝を捧げていました。 しかし、今や専業農家は少なくなり、 会社勤めをしながら兼業する農家の方が増えています。 集落の皆が農家だった時代と異なり、人々の生活形態は変わりました。 昔は集落単位で行った農作業や祭りも、皆の都合を合わせることが 難しくなり、平日に行われることもあった神社の例大祭は、 今やその多くが、皆が集まりやすい土日に行われるようになっています。 そして、時間をかけて行っていた祭りは、忙しいからと 簡素化されるようになり、担い手も徐々に減ってきました。 「昔は神様に人間が合わせたもんだが、今は   神様が人間の都合に合わせている。」 そう言った人がいました。…まさしく、そうですよね。 担い手が少なくなり、簡素化されつつある祭り。 農業が生活の中心でなくなっている今、それでも 祭りは続けられています。 なぜなのでしょうか。 それは、今でも「祭り」が集落という単位において 人々をつなぐ求心力を持つ「装置」であるからに他なりません。 a6567ab3.jpg
(写真:2011年夏/茂木町深沢 村境に立てられた風封じと厄除けのお札) 昨年は、震災の影響によって自粛された祭りも多く こんな時だからこそやるべきだ、という声や 派手に騒ぐのはいかがなものか、などという議論が 日本中で起こりました。 しかし、厳しい天災によって「祭り」と「祈り」の意味が これほどにも再認識されたことも事実です。 「ただただ、祈るしかできない」ほどの 自然の脅威にさられたのですから。 ゆえに、私たちが取材した祭りの数々は、祭りの原点に立ち戻り いつにも増して、深い祈りに満ちているように感じられました。 「祭り」は今、転機を迎えつつあります。 多くの集落で担い手の減少や過疎化、都市化によって 祭りが昔通りに出来なくなりつつある今、人々は なんとかして続けようと模索しています。 それは、簡素化であったり、担い手を周辺の地域から 集めることもありますが、結果はどうあれ 現在の担い手である人々は、「祭り」のために集まり、 知恵を出し合っている。 「昔はもっと派手だった」「昔はもっと人が来た」といった言葉も よく聞きましたが、それは自分たちの祭りを大切な存在として 認識していることの現れに他なりません。それが大事なのです。 集落の「祭り」を改めて見つめ直す行為 これこそが、次への始まりではないでしょうか。 決して後退ではない、そう思います。 また、震災を機に、地域コミュニティの重要性が注目されています。 震災報道では、普段から結びつきの強い集落の人々が助け合い、 厳しい状況を乗りきっている光景を、私たちは目の当たりにしました。 都市化が進み、コミュニティの崩壊が叫ばれる地域で 果たして同じように助け合えるのでしょうか。 近年、濃厚な付き合いが疎まれる集落単位のコミュニティですが 祭りは、家々との結びつきを確認し、万が一の災難にも 全員一致して恊働する予行練習のようなものではないかと思えます。 祭りが形骸化しつつある現在、そういった意味でも、 「祭り」という「装置」を再評価すべきではないかと思います。 神様の行事「祭り」は数百年も続いている。 ただのイベントでは、このように長く続かないでしょう。 津波で家を流された人々が、獅子舞をなどの祭りを行う姿を テレビの報道で目にしたとき、私は初めて、 祭りというものの価値がわかったような気がしました。 家がなくても、町が流されても 今、祭りが行われているこの場所に、我々の町がある。 人々はそう言っているように感じました。 ふるさとの祭り。それは、誰もがあるわけではありません。 ずっと昔から住んでいるからこそ存在する地域の祭りを ぜひ大切に伝え、続けていっていただきたい。 切に願っています。 102ヶ所をめぐっていろいろと感じ、考えた11ヶ月。 もちろんいいことだけでなく、農村部の課題や矛盾も感じました。 廃れて行く農産物や荒廃する里山も目の当たりにしました。 それでも、栃木の田園風景のすばらしさを、改めて感じました。 少なくとも、これまでただ見てきただけの景色が 今や違う色合いに見えていることは確かです。 栃木県で生まれ育った人も、そうでない人にも このかけがえのない「ふるさと」の田園風景の魅力を ぜひ知って頂き、身近なものとして感じて欲しいと願っています。 そして、美しく心和む風景の向こうにある 人々の営みに思いを馳せていただけたら幸いです。 この番組がそのきっかけになれば こんな嬉しいことはありません。 番組をお聴きいただいたリスナーの皆様、取材にご協力いただいた皆様、 栃木県庁農政部農村振興課の皆様ならびに各市町村の関係者の皆様、 番組のナレーションを担当してくださった臼井佳子アナウンサー そして、番組制作に関わったすべてのスタッフに感謝いたします。 本当にありがとうございました。 すべての恵みに感謝を捧げ、番組の結びとさせていただきます。 ※お知らせ 2012年4月12日より、栃木県の「とちぎのふるさと田園風景百選」の ホームページにて、放送した番組すべてをお聴きいただくことができます。 取材時に撮影した写真も掲載されております。 <聴きたい市町村の探し方> リンクされたページの左側にある「検索方法を探す」枠内にある 「田園風景百選からさがす」をクリックしていただくと 各市町村を選ぶことができますので、お選びになった市町村の画面にある ラジオのアイコンをクリックしてください。 このブログの各地のページからも直接該当地のページにリンクしております。 さて、みなさん。ここで新番組のお知らせです!! 「とちぎのふるさと田園風景百選」でご紹介した県内各地の美しい田園風景。 そこには、私たちの祖先が残した『郷土の食』や『お祭り』『伝説・民話』などの 宝物がたくさん詰まっています。 このふるさとの営みを未来へ伝えたい…そんな人たちをご紹介する 新番組『田園の伝承人』がスタートします! ご案内するのは、CRT初登場の村上久美子アナウンサーです。 第一回目の放送は4月23日 月曜日。夕方6時20分からの放送です。 ふるさとの味・家庭の味『まんじゅう』をテーマに 佐野の伝統野菜『かき菜』で作る『かき菜まんじゅう』を取り上げます。 新番組『田園の伝承人』は毎週月曜日 夕方6:20〜6:25放送 お楽しみに!!