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栃木県南部にある小山市の白鳥という地区は 巴波川と与良川に囲まれ、さらに思川も近く低地のため 昔から洪水の頻発地帯でした。 この辺りに住む人々は土地を高く盛って(水塚といいます) その上に家を立てたり、屋根裏に避難用の舟を取り付けて いざという時に備えていました。 渡良瀬遊水池の造成や河川改修など、度重なる治水工事によって 近年は洪水は起こらなくなってきましたが それでも、洪水の記憶が残る年代の人々は 雨が続くと警戒心を持つそうです。 このように洪水は人々の生活を脅かしましたが 同時に、恵みももたらしました。 巴波川では日常的に川エビやフナ、鰻など川の幸が人々の食卓を賑わし 洪水によって運ばれた肥沃な土は桑の生育を促し、 昭和40年代頃まで養蚕業が盛んでした。 土地改良でなくなりましたが、このあたりは沼がたくさんあったそうです。 想像するに、鷺などの白い鳥たちがたくさん飛来したことから 『白鳥』という地名になったのかもしれません。 このように、人々が畏れ敬ってきた巴波川ですが、 白鳥にある八幡宮は巴波川が起源で祀られた神社です。 bfc09dc8.jpg
今からおよそ470年前、白鳥を流れる巴波川のアゲップチという場所に、 ホカイという容器に入ったご神体が流れ着きました。 (そのご神体とは彫像だったといわれています) そして、旧暦のその日を神社の例大祭(日の出まつり)としているのです。 今年は2月2日に祭礼が行われました。 祭の儀式では、深夜2時にアゲップチで若水を汲み その水で赤飯を炊いて神前に供えます。 残念ながら、巴波川は河川改修で流れが変わり、 今では沼のようになってしまいました。 という訳で、写真上のようにその場所で水を汲む真似をします。 真似だけ?と思われるでしょうが、この『神聖な場所』で 水を汲むという儀式は、この神社の起源を表すものですから 祭礼としては、非常に大切なことなのです。 462bc501.jpg
面白いことに、この祭礼では毎年の当番家でご神体が引き継がれます。 (※今のご神体は誉田別尊の掛軸です) 必ず集落のどこかの家にあって、ぐるぐる回っているのです。 そして、かつては祭礼当日に当番家から神社まで、ご神体や幣束、お供えなどを持って 行列をしました。今では当番家ではなく、神社脇にある公民館で準備をし、 そこから神社まで下の写真のように行列をします。 向かうのは、提灯持ち、宮司、鍵番(ご神体を拾った人の子孫の家)、 氏子総代、そして今年の当番家や当番組の一行。 神事に必要なお供えなどを手にして神社に向かいます。 b9a7ca44.jpg
かつてこのお祭りは『頭屋制』という体制がとられ、 毎年担当する家によって仕切られていました。 集落は6つの組によって分けられ、毎年その組の中の1軒が当番となり、 祭の準備から神事、直会、引き継ぎの儀式までいっさいの運営をしたのです。 当番家には、引き継ぎや直会で人が大勢来るため、新築や改築をする家も多かったそうで 神様が通ったあとは集落中の家が新しくなる、という人もいました。 しかし、費用の負担の大きさや会社勤めの人の増加によって 昔と同じように祭を運営することは難しくなりました。 そこで話し合いの末、2003年から一部の儀式を簡略化することになりました。 近年は祭の担い手が農家ではなくなってきたため 平日に行われていた例大祭の日を土日にするとか 祭礼の簡略化や少子化などによる継承問題という話を各地で聞きます。 確かに、昔と同じように行うのは難しい時代です。 でも、その中で祭をなおも続けていこうとする為に あえて簡略化するという選択肢もあります。 この白鳥の例を見ると、ただ簡略化するというのではなく 改めてこの祭を見直すことで集落の住民相互の共同体意識を 再構築しているように見受けられるのです。 そこに、『まつり』の重要な意味があるのではないか、 そう感じることができました。 神事が終わると、大きな鬼のお面が鳥居に取り付けられ 訪れた人々はウツギの枝で作った弓と竹の矢でお面を射ます。 見事、目に命中するとその矢を持ち帰り、軒先などに付けておくと 厄難避けになると言われています。 この日は近くの下生井小学校の児童たちが、郷土のお祭りを学びにやってきて 楽しげにお面に矢を放っていました。 742230f4.jpg
この記事は2012年2月15日 水曜日に放送終了しましたが、 栃木県のホームページでお聴きいただくことができます。 認定地名、小山市 白鳥のページはこちら。 ラジオのアイコンがありますのでクリックしてお聴きください。 番組では、皆様からの感想をお待ちしております。 おハガキの場合は〒320-8601 栃木放送「とちぎのふるさと田園風景百選」宛 FAXは028-643-3311 メールはdenen@crt-radio.co.jpまでどうぞ! 「とちぎのふるさと田園風景百選」は栃木県のホームページでもご覧頂けます。